握力が低下してしまうのは、「血液の流れが悪くなっているから」かもしれないし、「神経の情報伝達がうまくいっていないから」かもしれないし、「筋肉が炎症を起こしているから」かもしれません。
握力の低下は、生活の見直しで改善することもありますし、病気が隠れていることもあります。
手に力が入らず、今までできていたことがやり辛くなると心配ですよね。
今回は、握力が低下する原因や病気、改善方法などを解説していきます。
この記事の目次
握力が低下する原因って何?
ビンのふたを開けたり、物を持ったり、字を書いたりするときには、手にそれなりの力が必要です。
力を出すためには、エネルギーの元となる栄養や酸素が必要ですし、脳からの信号が筋肉に伝わらなければなりませんし、筋肉自体に問題があってもいけません。
握力が低下する原因は、大きく分けると
◯神経や血管が 圧迫されている
◯神経が引っ張られている
◯筋肉(腱)に炎症が起きている
ということで、具体的には次のようなものがあります。
- 胸の筋肉やなで肩が血管や神経に影響する「胸郭出口症候群(きょうかく でぐち しょうこうぐん)」
- 首の骨に問題がある「頚椎症(けいついしょう)」
- 腕の腱(けん)が炎症を起こす「上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつ がいそく じょうかえん)」
などです。
それぞれについて、ほかの症状や発症しやすい人、改善方法などを解説していきます。
「筋力が低下する」症状をもたらす他の病気も後述しています。
筋肉に圧迫されて握力が低下した?
血管や神経が圧迫されると、栄養や信号の道が絶たれたりするため、握力が低下することがあります。
「胸郭出口症候群(きょうかく でぐち しょうこうぐん)」は、上図で示した鎖骨(さこつ)と肋骨(ろっこつ)の間にある胸郭出口(きょうかくでぐち)部で圧迫が生じるものです。
鎖骨の下を流れる動脈(鎖骨下動脈)や「腕神経叢(わんしんけいそう)」という神経の束が、周りの筋肉や骨に圧迫されて症状がでます。
首や胸の筋肉がよく発達した30代の男性に、発症が多いと言われています。
また、胎児期のなごりと言われる頸肋(けいろく)という骨に圧迫されている人もいます。
頸肋は首の骨(頸椎:けいつい)の一番下から、肋骨(ろっこつ)のように伸びている骨で、本来は図の右側のように短くおさまります。
なで肩のため胸郭出口部が狭いうえに、筋力が弱く腕の重みで神経が引っ張られて発症する人もいて、20~30歳代の女性に多いと言われています。
胸郭出口症候群のほかの症状は?
胸郭出口症候群は握力低下のほかに、腕や手の痛みやしびれ、だるさ、首の痛み、肩こり、字が書けない、おはしが使えない、などの症状がでることもあります。
鎖骨下動脈が圧迫されて手が白っぽくなったり、静脈が圧迫されて青紫色になったり、自律神経が圧迫されて、頭痛やめまいがすることもあります。
胸郭出口症候群の診断方法や治療方法は?
医療機関では診断のために、次のような検査が行われたります。
●鎖骨の上を押して痛みがあるか、
●頭を、症状の出ている手の方(左なら左)に向けて、腕を通る動脈の脈が弱くなるかどうか
などで、痛みがあったり脈が弱くなると、胸郭出口症候群が疑われます。
治療は、首や肩を温める温熱療法、薬物(痛み止めや筋弛緩薬など)療法などが行われます。
筋力の弱い人は、痛みがなければ 筋力をアップする運動療法が用いられることもあります。
日常生活で気をつけたいことは、
◯筋肉が神経や血管を圧迫している人は、腕を上に持ち上げる動作をさける、
◯なで肩で筋力の弱い人は、重たい荷物を手や腕にぶら下げない、長時間の事務仕事は避ける、
などです。
首の骨が握力低下の原因?
首の骨である頸椎(けいつい)の中には、中央を脊髄という神経が通り、骨のすき間を通って脊髄からたくさんの神経が出ています。
首の骨や椎間板(ついかんばん)という軟骨に変形が生じると、脊髄や神経が圧迫されて様々な症状がでることがあり、頚椎症(けいついしょう)と呼ばれます。
脊髄から左右に分かれて伸びている神経が圧迫された場合は、圧迫されている片手だけに握力低下などが現れます。
握力低下以外にも圧迫を受ける神経によって、首や肩の痛み、手や腕のしびれ、筋肉の委縮(いしゅく)、手の細かな動きができない巧緻障害(こうちしょうがい)、歩行障害、感覚障害、頭痛、めまいなどがでることもあります。
頚椎症を発症する人は男性が女性の2倍以上多いと言われており、遺伝や、首の使い方(姿勢)などが原因と考えられています。
頚椎症の改善方法は?
頚椎症は、姿勢の見直しで改善することがあります。
顎を突き出す姿勢や頭を長時間傾ける姿勢など、首の一か所に負担をかけるのをやめると、椎間板の変形も少しずつ改善されるとされています。
首の障害は、ストレスやうつなどを引き起こすこともありますので、注意が必要です。
炎症が握力低下の原因?
手の指を曲げ伸ばしする筋肉は、腱(けん)で肘の骨につながっていますが、手首の使い過ぎや、重いものを運ぶ作業の繰り返しなどが原因で、腱に炎症が生じ、握力の低下を引き起こすことがあります。
肘の外側がいたむ「上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつ がいそく じょうかえん)」は30~50歳代の女性に多く、テニスのバックハンドでの損傷が多いことから、テニス肘とも呼ばれています。
肘を押さえて痛みがでることもあります。
上腕骨外側上顆炎の改善や治療方法は?
上腕骨外側上顆炎の改善にも、日常生活の見直しが必要です。
●重たいものを持つときは、手のひらを上に向けて腕全体で持つ、
●タオルを絞る時は、洗面器の底に押し付けるようにしてしぼる
などで、手首にかかる負担を軽くします。
医療機関では、痛み止めの塗り薬や炎症を抑える薬などが処方されることもあります。
「テニス肘バンド」(エルボーバンド)の装着が、腱にかかる負担を軽くするのに有効だともされています。
テニス肘バンドは、炎症部をさけて、肘から指の巾2~3本分手の方にずらしてはめます。
テニス肘バンドを見てみたい方は、こちらを参考にしてください。
筋力の低下を引き起こす病気や原因は他にもあります。
これまでは特に、握力を低下させる3つの病気を解説しましたが、腕や手の筋力が低下する病気は他にもあります。
- 脳血管障害
- 脳腫瘍(のうしゅよう)
- 脊髄腫瘍(しゅよう)
- 電解質異常
- 多発性筋炎(たはつせいきんえん)、皮膚筋炎
- 関節リウマチ
- 重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう)
- 腱鞘炎(けんしょうえん)
などです。
●脳の血流を低下させる脳血管障害には、脳梗塞(のうこうそく)や、脳出血、くも膜下出血などがあります。
●電解質は体の機能調整に欠かせない物質で、正常に機能しなくなると神経や筋肉に影響が出てしまいます。
●多発性筋炎や皮膚筋炎は、筋肉に炎症が起きるもので、皮膚表面に赤みやガサガサをともなうことがあります。
●関節リウマチは、朝にこわばりが生じることが特徴です。一時的な握力の低下として感じる人もいるでしょう。
●重症筋無力症は、疲れやすく全身の筋力が低下したりする自己免疫疾患です。
●腱鞘炎は、腱を包んでいる鞘(さや)に炎症が起きるもので、手首に起きることがよく知られています。
同じ病気でも、症状のでかたは人によって違うことが多いものです。
握力の低下として現れる人もいれば、しびれや痛み、震えとして、麻痺などの感覚異常として現れる人もいます。
握力低下の裏に、病気が隠れていることも考えられますので、気になることがあれば、早めに受診されることをおすすめします。
何科に行けばいいか迷われたときは、整形外科やかかりつけ医のいる病院などがいいでしょう。
握力の年齢による変化は?
握力は年齢により変化するもので、高齢になれば筋肉量が減ることで握力も弱くなります。
一般的に男性は、20歳代から30歳前半が握力のピークで、35歳くらいから徐々に低下していきます。
一方女性は30歳代が最も強く、50歳を過ぎたあたりから、徐々に低下していきます。
まとめ
握力の低下について見てきましたが、いかがでしたか。
力の減少は、体からのサインであることが多いです。急に低下したり、片手だけが弱かったりすると、血管や神経が何らかの原因でせき止められている恐れがあります。
生活のちょっとした改良で、改善することもありますし、治療が必要なこともあります。
長引くときは、検査しに行ってくださいね ^^)