肝臓は、おどろくべき能力を持った臓器で、様々なことが原因で損傷しても、細胞の再生と自己回復を繰り返し行うことができます。
自覚症状となって現れることが少ないので「沈黙の臓器」などと呼ばれています。
ですがそれが災いするとき、知らないうちに肝臓の組織が硬くなってしまったり、膿(うみ)ができてしまったり、もっと悪くなれば癌ができるということもあり、肝臓は「サイレントキラー」とも呼ばれています。
今回は肝臓について、「悪いとどうなってしまうの?」、「肝臓が悪い状態とは?」をはじめ、肝臓にとって良い食べ物や改善方法なども解説していきます。
この記事の目次
「肝臓が悪い」とは?肝臓の働きは?
肝臓は大変優れた再生能力をもっており、手術などで70~80%が切り取られたとしても、元の大きさに戻ると言われています。
肝臓は、2500億以上もの細胞を持っており、肋骨(ろっこつ)の中に位置しています。
肝臓が多くの細胞と再生能力を持ち、骨からも守られているのは、 肝臓に重要な役割があるからです。
肝臓には500以上もの様々な働きがあると言われていますが、代表的な次の3つの働きがあります。
- 腸から入ってくる栄養素を使って、からだに必要な様々な物質をつくり出す(代謝)
- 腸から入ってくる有害物質を分解し、無毒化する(解毒作用)
- 古くなった赤血球やコレステロールを使って、脂肪を分解して吸収する胆汁(たんじゅう)を作る
肝臓は「からだの中の化学工場」とも呼ばれています。
肝臓はどんなふうに悪くなるの?
肝臓が多くの細胞を持ち、損傷に備えていても、次のようなことが起きてしまうことがあります。
- 肝臓に炎症が起きる
- 肝臓が線維化し硬くなる
- 肝機能が障害される
- 肝臓の中に膿がたまる
それぞれについてくわしく見ていきましょう。
肝臓に炎症がおきるってどういうこと?
肝臓には、門脈(もんみゃく)と呼ばれる血管を通って腸から様々な物質が入ってきますが、その中には肝臓が異物(害)とみなす物質があります。
肝臓の細胞(肝細胞)は、攻撃を仕掛けて異物を取り除こうとしますが、周辺の細胞も破壊されてしまうことがあります。
これが「炎症」で、肝臓で起こる炎症は「肝炎」と呼ばれ、損傷した部分が熱をもったり、痛みがでたり、腫れたりすることがあります。
肝炎は起こす原因物質は?
肝炎を起こす原因物質には、次のようなものがあります。
- ウイルス(A型、B型、C型、D型、E型、EBウイルス、サイトメガロウイルスなどが知られています。)
- アルコール
- 薬剤
などです。
肝炎の80%は、ウイルスが原因と言われ、食べ物や血液などを介して感染します。
また、
- 肝臓の代謝機能が障害を起こすために引き起こされる炎症や、
- 免疫細胞が異常行動を起こすことで引き起こされる炎症(自己免疫性肝炎)、
- 肥満が原因で肝細胞に中性脂肪がたまる「脂肪肝(しぼうかん)」による炎症
などもあります。
肝炎が進行するとどうなるの?
肝炎は、治療すれば数週間で回復する「急性肝炎」が多いですが、約1%は肝臓の機能が著しく低下する「劇症肝炎(げきしょうかんえん)」という、急を要する状態におちいると言われています。
急性肝炎を放っておいたりすることで進行する、慢性肝炎や肝硬変、肝がんなどになることもあります。
慢性肝炎は、おもにB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染した場合に発症することがあると言われています。
肝硬変とは、肝臓全体の組織が線維化して硬くなってしまう病気です。
肝がんは、炎症が続くことで発生した活性酸素が、細胞や遺伝子を傷つけることで発症するのではないかと考えられています。
肝炎の症状は?
肝炎をわずらったときの症状には、次のようなものがあります。
- 発熱
- のどの痛み
- 頭痛
- 腹痛
- 全身の倦怠感
- 食欲不振
- 吐き気
- おう吐
- 尿の色が濃くなる
- 黄疸(おうだん)
などですが、自覚症状のない場合も多いと言われています。
「劇症肝炎」では、このほかに
- 酸っぱいような口臭
- 皮膚の点状出血
などが見られることもあると言われています。
肝臓の解毒作用が低下すると、無毒化できなかったアンモニアが脳に入り「肝性脳症」を引き起こすこともあります。意味の分からないことを言ったり、昏睡状態に陥ったりするのが「肝性脳症」の症状です。
肝炎を見つける検査
肝臓が悪くなっていることを発見するには、血液検査を受けることが有効とされています。
もし肝細胞が破壊されていると、「ALT」や「AST」と呼ばれる肝臓内の酵素が血液に漏れ出し、血液中の「ALT(GPT)」や「AST(GOT)」の値が高くなるからです。
ただし、炎症のない脂肪肝があったり、夏の暑い日に激しい運動をしたりしたあとでも、血液中のALTやASTの値が高くなることがあると言われています。
肝臓病の診断は、様々な検査データや生活習慣調査などを元に行われます。肝臓の検査には超音波検査、CT、MRI、肝臓の組織を注射針でとる「肝生検」などがあります。
急性肝炎の治療方法は?
初期の肝炎を改善するためには安静が必要で、体を横にして肝臓に流れる血流を増やすことが大切だとされています。点滴でブドウ糖やビタミンなどが補給されることもあります。
慢性肝炎の治療方法は?
肝炎が慢性になってしまった場合は、肝炎を引き起こした原因を取り除くことが重要です。
アルコール性肝炎では、禁酒が最高の治療法だと言われ、食べ過ぎによる脂肪肝が原因の肝炎では、ダイエットや運動が大切です。
ウイルスが原因の場合は、抗ウイルス薬などが用いられます。
肝炎を予防するために
肝炎を予防するためには、ウイルスごとの感染原因を知っておくことが大切です。ここでは現在日本で比較的多く発生しているタイプのウイルス性肝炎について原因と対策を解説します。
A型肝炎の予防
A型肝炎は、生水、果物、魚介類などから感染することが多いとされており、特に東南アジアでの魚介類の生食には注意が必要です。
B型肝炎の予防
B型肝炎は、体液や血液などから感染することが多く、性行為での注意が必要です。
C型肝炎の予防
C型肝炎の発症は多くありませんが、血液によって感染することがあり、いれずみ、薬物依存者による注射器、医療従事者の針刺し事故などが原因と言われています。
口移しの食べ物が原因で、子供に感染するケースもあります。
E型肝炎の予防
E型肝炎は、豚肉やイノシシ肉、鹿肉などを十分に加熱調理しなかった場合に感染することがあります。
E型肝炎では、重症化する割合が他のウイルスより高いとされています。
肝硬変の症状
肝炎が悪化したりして発症する肝硬変の症状には、次のようなことがあります。
- 顔や胸、背中の皮膚表面の毛細血管が拡張しておこる「蜘蛛状血管腫(くもじょうけっかんしゅ)」
- 黄疸
- 全身のむくみ
- お腹や胸に水がたまる「腹水(ふくすい)」や「胸水(きょうすい)」
- 鼻が赤くなる「酒さ」
- こむら返りが多くなる
などです。
腹水や胸水は、硬くなった肝臓に血液が流れにくくなったことで、血管やリンパ管から漏れ出した水分が腹部や胸部にたまることです。
むくみが起こるのは、肝機能の低下で血管に水分を保持する働きのある「アルブミン」が減るからです。
男性では、女性のように胸が大きくなることもあります。
肝機能が障害されるってどういうこと?
炎症が起きないまでも、肝細胞の活動が阻害され、肝機能が正常に働かなくなったり、胆汁が胆のうに流れにくくなったりするのは「肝障害」と呼ばれます。
肝障害を起こす原因には、次のようなことがあります。
- アルコールの多飲
- 細菌や寄生虫による感染
- 薬剤による中毒やアレルギー
アルコールによる肝障害とは?
飲酒を常習的に続けていると、肝細胞に中性脂肪がたまる「アルコール性脂肪肝」になり、肝臓の組織が線維化する「アルコール性肝線維症」や、線維化がさらに進む「アルコール性肝硬変」になることがあります。
(肝細胞にたまった脂肪が、免疫細胞の好中球(こうちゅうきゅう)によって攻撃され炎症を起こすのがアルコール性肝炎です。)
細菌や寄生虫による肝障害
細菌や寄生虫に感染した場合、肝臓に膿がたまる「肝膿瘍(かんのうよう)」が引き起こされることがあります。
肝膿瘍では、発熱、寒気、腹痛、肝臓がはれるなどの症状がでることがあると言われています。
肝膿瘍の治療には、抗生物質の投与や、肝臓にチューブを刺して膿を抜くなどの方法が用いられます。
薬剤中毒による肝障害
薬剤による中毒は、解熱剤や鎮痛剤、経口避妊薬などを用法・用量を守らずに服用した場合などに発症することが知られています。
薬剤アレルギーによる肝障害
薬剤によるアレルギーでは、様々な薬物が対象となり、体質に合わない場合は、サプリメントや漢方薬、健康食品などで肝障害を起こすこともあります。
薬剤アレルギーの症状は、湿疹やじんましん、吐き気、食欲不振、尿の色が濃くなる、赤くなるなどです。
原因になっている薬剤の服用を中止すれば、徐々に改善していくと言われていますので、処方薬が原因と思われる場合は、担当の医師に相談するのがいいでしょう。
肝障害がおきていることがわかる検査
血液検査で「ALT」や「ALP」の値が参考標準値を超えている場合、肝障害が疑われます。
「ALP」は全身に存在する酵素ですが、肝臓や骨の状態が悪くなることで、血液中に漏れ出すことが多いとされています。
γ(ガンマ)ーGTPという酵素の血液中の値が高くなっていれば、さらに肝障害の疑いが強くなります。
太っていなくても脂肪肝になる!?
飲み過ぎや食べ過ぎなどの習慣がなくても、脂肪肝になることがあります。
妊娠や薬物の服用が原因で、肝臓全体に小さな脂肪が沈着することがあり、全身の疲れ、食欲不振、黄疸、肝機能障害などを起こすことがあるとされています。
肝臓が悪いときは何科を受診すればいいの?
肝臓の状態が悪そうだという時には、肝臓の専門医や消化器の専門医がいる内科、消化器内科などの受診がおすすめです。
血液検査の結果がある場合は持参し、問診では、生活習慣や飲酒の量を正直に医師に告げることが大切です。
気になる症状もしっかり伝えましょう。
肝臓がこれ以上悪くならないために
肝臓を元気にするためには、適切な食事と運動が大切になってきます。
肝臓が弱っているときの食事
食事は、肝臓の状態によって適した食べ物が異なると言われています。
肝炎になった肝臓を再生させるには、必須アミノ酸が含まれるタンパク質が必要ですが、肝機能が弱っている場合は、タンパク質を合成する働きが低下していますので、特に、必須アミノ酸が豊富に含まれている分岐鎖(ぶんきさ)アミノ酸(BCAA)が必要です。
分岐鎖アミノ酸は、卵や納豆、豆腐などの大豆製品、牛肉、鶏肉などの肉類、かつお、マグロなどの魚類、チーズ、牛乳などの乳製品に含まれています。
肝臓が弱っている場合は、肝臓に負担をかける「脂肪分」が少なめのタンパク質を選ぶことも大切です。
ただし、肝硬変の状態によっては、たんぱく質を制限しなければならないこともありますので、医師にアドバイスを求めましょう。
カロリーのとり過ぎにも注意して、食物繊維を多く含む野菜や果物なども摂りましょう。
脂肪分の少ない肉の部位や、肝臓が弱っているときに食べたくなる食べ物をこちらでご紹介しています。
肝臓の状態が悪いときの糖質の摂り方は
肝機能が低下するとグリコーゲンが不足して肝臓に負担がかかると言われています。糖分の摂取はおさえつつも、極端に糖質を制限しないことが大切です。
肝臓が弱っているときは、肝臓に脂肪をためにくい食物繊維の豊富な豆類、いも類、玄米、胚芽パンなどで糖質を摂るのがいいとされています。
肝臓の状態が悪いときのビタミンの摂り方は
肝臓が悪いと体内のビタミンが不足やすくなるので注意が必要です。なかでも、ためておくことができない水溶性のビタミンB群、ビタミンCはまめに摂取する必要があります。
ビタミンB群は糖質、脂質、タンパク質の代謝などに必要で、ビタミンCは細胞や粘膜、酵素、免疫力にとって大切な成分です。
また、脂溶性ビタミンのA、D、E、Kや、肝臓が悪くと不足がちになるカルシウム、肝臓の再生に欠かせない亜鉛などのミネラルも欠かさず摂りたい栄養素です。
肝臓の状態が悪いときの脂質の摂り方は
脂質は不飽和脂肪酸で補いましょう。
体に必要な脂質は、肝臓に負担をかけ、脂肪肝の原因になる「飽和脂肪酸」の含まれる脂質ではなく、中性脂肪を減らす効果のある「不飽和脂肪酸」の脂質から摂りましょう。
不飽和脂肪酸は、青魚やオリーブオイル、なたね油などの植物油に多く含まれています。
まとめ
肝臓の働きや病気などについて見てきましたが、いかがでしたか。
肝臓は状態が悪くなっても、自身で何とかしようとする臓器ですが、なんとかならないときもあります。
規則正しい生活を続けていれば、肝臓の調子が悪くなっても、すぐに気づくことができるかもしれませんね。
健康的な体を保っていれば、肝臓が自身を治す手助けもできるでしょう。
肝臓をいたわってあげたいですね ^^)