肘に痛みを起こす原因はたくさんあります。肘には骨のほかに腱(けん)やじん帯、関節を包む膜、神経などがあり、障害や炎症が起きると痛みます。
どうなった時に痛くなったのか、痛み以外の症状はあるか、痛い場所(外側や内側、後など)はどこか、肘を伸ばすと痛いのか、それとも曲げた時に痛いのかなどで、原因を推測することができます。
今回は、肘に痛みを起こす10の病気について解説していきます。
医療機関で行われる治療方法も、参考にしていただければと思います。
この記事の目次
肘が痛い原因はなに?
肘の関節には骨、骨を支えるじん帯、関節を守る袋、頭からつながる神経、指の曲げ伸ばしを行う筋肉、筋肉と骨をつなぐ腱(けん)など、たくさんの器官が付いています。
器官に疲労がたまったり、衝撃を受けたり、細菌が入ったりすると次のようなことが引き起こされます。
- 手首の使い過ぎで起こる、上腕骨(じょうわんこつ)外上顆炎(がいじょうかえん)
- 肘をついたときに痛む、肘頭滑液包炎(ちゅうとうかつえきほうえん)
- 肘の使い過ぎで骨がはがれる、離弾性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)
- 骨折(こっせつ)
- 骨が飛び出す、脱臼(だっきゅう)
- じん帯の損傷
- 軟骨がすり減る、変形性肘関節症(へんけいせい ちゅうかんせつしょう)
- 首の痛みから始まる、頸椎症性神経根症(けいついしょうせい しんけいこんしょう)
- 細胞が関節を攻撃する、関節リウマチ
- 良性の腫瘍ができる、色素性絨毛結節性滑膜炎(しきそせい じゅうもうけっせつせい かつまくえん)
それぞれの痛む場所や発症しやすい人、治療方法などをみていきましょう。
手首の使い過ぎで、肘が痛い?
仕事やスポーツでの手首の使い過ぎが、肘に痛みを起こすことがあります。
肘の骨には、上図のように、指や手首とつながっている筋肉の腱(けん)が付いています。この筋肉の使い過ぎで腱に疲労がたまると、線維(せんい)が切れて炎症を起こし痛みがでます。
痛むのは外側? それとも内側?
肘についている筋肉には、手首を「手の甲側に曲げる筋肉」と、手首を「手のひら側に曲げる筋肉」が別々にあり、痛む場所が異なります。
上図のように肘の外側(親指側)には、「手首を手の甲側に曲げる筋肉」の腱があり、傷めることを上腕骨外上顆炎(じょうわんこつ がいじょうかえん)と言います。
テニスのバックハンドで傷めることが多いことから「テニス肘」とも呼ばれていますが、パソコン作業や調理、家事をする人などにもみられます。
上腕骨外上顆炎は、
手の甲を、反対の手で上から押さえながら、手首を甲側に曲げたり、
肘を伸ばしたまま椅子などの少し重いものを持ったりしたときに
肘に痛みがでるとされています。
肘の内側(小指側)には、「手首を手のひら側に曲げる筋肉」の腱があり、傷めることを上腕骨内上顆炎(じょうわんこつ ないじょうかえん)と言います。
「ゴルフ肘」とも呼ばれています。
上腕骨内上顆炎は、
手のひらを上から押さえながら、手首を手のひら側に曲げたり、
腕を下図のように内側にひねったりしたときに、肘に痛みがでるとされています。
上腕骨外(内)上顆炎の治療方法は?
上腕骨外(内)上顆炎の治療で最も大切なことは、原因と思われる作業を減らし、腕を安静にすることです。
病院などでは、患部の状態に合わせ、アイシング(冷やす)や、炎症を抑える飲み薬・塗り薬の処方、痛み止めの注射が行われることもあります。
上腕骨外(内)上顆炎では、ストレッチが症状の緩和に効果的だとも言われています。受診時に適切な方法を尋ねられるといいでしょう。
肘をついたときに痛む?
肘を曲げたとき、角になるところには、滑液包(かつえきほう)という、液体の入った小さな袋があります。
滑液包は、肘を衝撃から守っていますが、ぶつけたり、肘をついてテレビを見たり、机に肘をつくことが多かったりすると炎症が起きて痛みます。これを肘頭滑液包炎(ちゅうとう かつえきほうえん)と言います。
滑液包に水がたまってふくれ、肘の先がぽこっと腫れることもありますが、通常は肘をつかないようにして安静にしていれば、回復すると言われています。
赤く腫れて痛みが強いとき
肘の先が熱をもって赤くなり、強く痛むときは、細菌などの感染が原因で炎症を起こしていることもあるので注意が必要です。
治療には、菌を殺す薬などが使用されます。
肘の骨がはがれて痛い?
骨のはしっこが、軟骨と一緒にはがれてしまうことがあり、炎症が起きて痛みます。離弾性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)と言います。
でっぱりのある、上腕骨の滑車部(かっしゃぶ)や小頭部(しょうとうぶ)に多く発生します。
思春期から青年期のピッチャーやキャッチャーなど、たくさんボールを投げる人に多くみられることから、「野球肘」とも呼ばれ、肘の使い過ぎが原因と考えられています。
離弾性骨軟骨炎の治療方法は?
離弾性骨軟骨炎は、ギプスなどで肘を固定したりします。
肘の骨が折れて痛い?
肘でよく骨折が起こるのは、図で示したところで、後ろ向きにこけて肘を強く打った時や、前方にこけて手のひらを強くついた時などに折れてしまいます。
骨折すると、肘が腫れたり内出血が起こったり、押すと痛みが増したりします。
折れた場所によっては、腫れが目立たなかったり、痛いところがよくわからない、ということもあるので注意が必要です。
CTやMRIで検査することも
骨折の診断にはレントゲン撮影が行われますが、分かりづらい時はCTやMRIが用いられることもあります。
肘の骨は少しでもずれると、腕の曲げ伸ばしが大変不自由になる関節で、筋肉に引っ張られて徐々に骨がずれたりすることもあるので、十分に検査した方がいいというわけです。
骨折の治療方法は?
骨折の治療方法は、肘を固定して安静にすることです。
骨のずれがある場合は整復(元に戻すこと)や、手術が必要になることもあります。
医療機関を受診するときは、肘が痛くなった経緯や状況などを、できるだけ詳しく医師に伝えることが大切です。
肘の骨がはずれて痛い?
関節にある骨が、本来の位置からずれてしまうことを脱臼(だっきゅう)と言い、肘に起きる脱臼では図のように、尺骨(しゃっこつ)が、後に突き抜けるように外れることが多いとされています。
手をついて転んだ時の衝撃で外れることが多く、強い痛みをともないます。
関節が未発達の子供では、腕を引っ張られたときなどに、少しはずれる亜脱臼(あだっきゅう)を起こすことが多いです。
脱臼の治療方法は?
肘が痛いときはすみやかに整形外科などを受診し、脱臼があれば骨を元の位置に戻してもらう必要があります。
一度脱臼すると、脱臼しやすくなることもあり、注意が必要です。
肘のじん帯が切れて痛い?
肘には、骨と骨をつないでいる硬い組織のじん帯があり、線維が切れたりすると痛みやはれ、肘の不安定感などを引き起こします。
骨折や脱臼をきっかけに、じん帯が伸ばされた時や、野球などのスポーツで、繰り返しじん帯にストレスがかかった時などに損傷します。
肘を、本来は曲がらない方向に、横から押したときに痛みが強くなることもあります。
靭帯損傷の治療方法は?
靭帯損傷の治療では、おもに装具での固定が行われます。
肘の軟骨部がすり減って、骨が当たる?
軟骨がすり減って、
はがれたかけらが関節包(かんせつほう)の滑膜(かつまく)を刺激して炎症を起こしたり、
骨と骨が直接ぶつかったりして
痛みを引き起こすことを変形性肘関節症(へんけいせい ちゅう かんせつしょう)と言います。
軟骨がすり減る原因は、
- 肘関節の使い過ぎ、
- 骨折や脱臼、離弾性骨軟骨炎、
- 関節リウマチなどの関節炎、
などと言われています。
変形性肘関節症を発症しやすい人は、
大工さんのような肉体労働をする人、
重量挙げなど、重たいものを持つスポーツをする人、
などです。
手にしびれが出ることも
変形性肘関節症では、骨と骨の間が狭くなったり、骨棘(こっきょく)という棘(とげ)のような小さなでっぱりができたりして、ひじ関節を通る尺骨(しゃっこつ)神経を圧迫することが多くあります。
尺骨神経が圧迫されると、
- 肘の動かし始めが特に痛い、
- 手や指(小指と薬指)がしびれる、
- 手の感覚が鈍くなった(まひ)、
- 指が使いづらい
- 安静にしていても痛い
などの症状がでます。
すり減ったかけらが大きい場合には肘関節にはさまり、肘をまっすぐに伸ばせないこともあります。
変形性肘関節症の治療方法は?
変形性肘関節症の治療では、状態に合わせて痛み止めの塗り薬や飲み薬がだされたり、温熱療法が行われたりします。
肘の曲げ伸ばしが不自由な場合は、手術で引っ掛かり部分をとることもあります。
関節リウマチで肘が痛い?
体を外敵などから守る免疫細胞が異常行動を起こし、関節包の滑膜などを攻撃して炎症をおこすものを関節リウマチと言い、肘に発症することもあります。
腫れや痛み、こわばりがでます。
関節リウマチの治療方法は?
関節リウマチは、早く治療を始めることが重要で、リウマチ専門の医師に診てもらうことが望ましいとされています。
薬で、免疫細胞の異常や炎症を抑えたりして治療します。
肘の関節に「できもの」ができて痛い?
関節包に良性のできもの(結節)ができて炎症を起こすことを、色素性絨毛結節性滑膜炎(しきそせいじゅうもうせいけっせつせいかつまくえん)と言い、まれに肘にもできることがあります。
痛みや腫れの症状と肘の機能低下を起こすことがありますが、原因は明らかになっていません。
機能不全が起こる前に、早めの受診を
肘は他の関節に比べても、曲げ伸ばしができないと大変不自由だと言われています。ご飯を食べたり、服を着替えたり、トイレの始末をしたり、爪を切ったりなど、不便を感じることが多いのです。
大事に至らないうちに、痛みの原因を突き止めることが大切です。
自己判断は避けて、早めに受診するようにしてくださいね。
まとめ
肘の痛みについて考えられる原因などを見てきましたが、いかがでしたか。
肘は、ちょっとしたことで痛くなることがありますが、知らないうちに骨が折れていた、ということもなくはありません。
いくつかの障害が重なっているということもありますので、慎重に対処してくださいね ^^)